大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)269号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人浜田博の上告趣意について。

他人所有の建物を適法な権限に基いて現実に使用管理するときは、刑法二五二条第一項にいわゆる「占有」にあたるのであって、かかる占有者が当該建物を不法に自己の物とすることを決意し、その意思を表現する行為に出た以上、横領罪を構成すべきことは当裁判所ならびに大審院の判例の趣旨とするところである(昭和二四年(れ)第二〇七五号同二五年九月二二日第二小法廷判決「集四巻九号一七五七頁」および昭和八年(れ)第八八二号同年一〇月一九日大審院判決「集一二巻一八二八頁」参照)。従って、数名の共有に属する未登記建物について、そのうちの一部の者が他の者の合意の下に、その全部を現実に使用支配している場合に、右の一部の者が他の持分権利者を無視排除して、自己等のみで設立した有限会社に、自己等のみの共有建物としてこれを現物出資し、同会社のため会社名義を以って所有権の保存登記を為し、もって不正領得の意思を表現する行為に出た以上、該登記の効力の如何に拘らず、横領罪を構成すること勿論であって、原判決が本件被告人等の所為を横領罪に処断したことは固より正当である。右の場合において登記の前後を通じ、建物に対する現実の支配関係に何ら変動がないとしても、該建物につき苟もこれを不法に領得する意思を顕現せしめる行為があった以上、横領罪の成否に消長を及ぼすものではない。

論旨引用の大審院判例は、いずれも、他人所有の不動産について登記簿上所有名義を有する場合に、刑法二五二条一項にいわゆる「占有」ありということができるか否かという点に関するもので、他人の不動産について現実に管理支配している場合に右にいわゆる「占有」にあたるか否かという点につき特に判断したものではないから、本件に適切ではない(論旨引用の判例中、明治四三年の大審院判例は、その事案の内容に徴すると、他人の建物を賃借していた者が、該建物を自己の所有物なりとして保存登記をしても、横領罪を構成しないとする趣旨を含むものとも解し得られない訳ではないが、仮りにかかる趣旨を含むものとすれば、それは前記当裁判所の判例によって既に改められたものと云わなければならない)。従って、判例違反の論旨は採用することを得ない。その余の論旨は単なる法令違反の主張であって適法な上告理由にあたらない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例